はじめて中国ドラマにはまって、はじめて中国行ってみて考えた話

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はじめましてこんにちは、コットンと申します。はとさん主催の素敵な企画、アドベントカレンダーの12/19担当です。

いい企画だねぇ…と思いつつ、私は文章がへたくそですのでスルーしていたのですが、たまたまカレンダーを見たところ、一か所だけポツンと空いていたのでそこに参加しました。何かあるんでしょうか19日。

 これから書く内容はタイトルの通り「初めて中国ドラマにハマってはじめて中国行ってみて考えた話」です。ここで特筆すべき点は、私は洋画沼の住人だということです。洋画と言っても、結局多くはハリウッドとUKの映画のことですから。そんな洋画沼の住人がおっかなびっくり中国の沼をのぞいてみた体験記、という感じになります。旅レポではないです。旅はいつか本にしたいと思うのですが、そこには多分、洋画オタクっぽいことをこまごまと書かないので…オタクのボヤキを中心に書きたいと思います。結果悩ましい迷いの話になってしまいました。10000字超えました。

 

【ことのはじまり。軍師連盟との出会い】

 ことの始まりは、洋画沼おなじみWOWOWから加入者に毎月届く冊子をパラパラ眺めていた時のことでした。そこに三国志司馬懿 軍師連盟~』とドーンと(たしか見開きで)組まれた特集ページがあったのです。

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 司馬懿は「しばい」と読みます。中学の国語の時間に「死せる孔明、生ける仲達を走らす」という故事を習ったかと思うのですが、その走らされた仲達さんの名前の上半分が「司馬懿」です。WOWOWも自信がないのか、「司馬懿」にルビがふってあります。最近ではFGOで見た!と言われることも増えましたが、見てみたらギャルだったので?うん???てなってたりする。

 ここでは私は急に「中国ドラマデビューしてみよう」と思い立ちました。理由はいくつかあって、
映画「新しき世界」や「名もなき野良犬の輪舞曲」「空海 KU-KAI 美しき王妃の謎」によって、アジアやるじゃん!と自分の中でブームが来ていた
もはや多くのコマがネットスラングと化している、横山光輝のまんが「三国志」(全60巻)をたまたま全部読み返したタイミングだった
WOWOWがわざわざ日本に持ってきて「金かかってますよ!」と見開きで特集組むんだから、日本人が見てもそれなりに面白いに違いない
主人公が司馬懿だった
てな感じです。特に④ですが、司馬懿仲達を知らない方に説明するとこの本の表紙の人です。

待てあわてるなこれは孔明の罠だ

待てあわてるなこれは孔明の罠だ

  • 作者:原 寅彦
  • 発売日: 2014/06/18
  • メディア: 単行本
 

 いかにもやられ役。いや実際そんなことはないんですが、ジョン・ウーの映画「レッドクリフ」を見てもわかるように、「三国志」とエンタメ文脈でいう時、たいてい主役は「諸葛孔明」だったり、彼の所属する国。でもこのドラマはその敵国の武将である「司馬懿」をわざわざ主人公にすえたわけです。「織田信長」じゃなくて「麒麟がくる」なわけです。しかも主演の俳優は地味目のおじさん…というところに(少なくとも長谷川博己ではなさそうだ)、逆にドラマ側から発せられるクオリティへの大いなる自信と、ただならぬ野心を垣間見て、視聴を決めたのでした。ついでに布教しようと思ってたくさん書いちゃいましたごめんなさい。

 ドラマにどうハマったか詳細は省きますが、結果としてこのドラマ「軍師連盟」(全86話)は私の海外ドラマ・オールタイムベストTOP5内に躍り出たので、興味のある方はぜひ見てみてください。家族を愛してやまない一人の男が、自身の正義や欲望や野望に向きあい戦い続ける、大変贅沢なつくりの一代記です。衣装も音楽も最高!長編ドラマのいいところは人物の変化を丁寧に描けるところです。製作者はきっとブレイキング・バッドを見ただろうと私は思います。また、さすが13億人の頂点に立つ俳優たち、メインキャストは全員天才です。なんだこれは。下の画像をクリックするとhuluの視聴ページに飛びます。

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 なお先ほど「地味目のおじさん」と呼んだ俳優、↑の中央にいる呉秀波さんは中国大陸で最もモテる50代と言われた、当時の国民的超絶大人気スターであり、私がのちに「ギエエエ天才!!我爱你!!」と地にひれ伏す未来が待ってることは当時は予想できませんでした。私ときたら白ブリーフの地味なおじさんが出てくるドラマのせいで人生狂っている前科があるのに、学ばないですね。

 

【旅のきっかけ】

※ですます調疲れたのでやめます

 これはもう、いろんなことが本当にたまたま同時多発的に起こった。天の采配だったのだ。

①そんな軍師連盟にハマるなか、春秋航空が新規路線・就航記念バーゲンセールで中国各地への航空券を3999円で発売しはじめた
WOWOWが旅行会社と「軍師連盟・聖地巡礼ツアー」を販売しはじめた
③ちょうど公開された映画「キングダム」(韓国ドラマじゃないよ)を見て、パンフを読んでいたらロケ地である中国の映画村について書かれていた

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 まず②については、割と驚いた。オタクコンテンツにおける「聖地巡礼」が持つ、ミーハーでかつ重たい愛のイメージを、公式が後押ししようとしたことに。旅行会社のHPには、簡単なツアー日程が掲載されていたのでどれどれと見てみると…

「ここ ↓ にも行きます!」と書いてある。

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は??これCGじゃないの???実在?????

 画像のふたりは、主人公とその主君のバディ。この場所は、劇中ふたりが作戦会議をしたりデート(意訳)をしたりする時にちょくちょく来る、ブレイキング・バッドなら荒野、シャーロックならSPEEDY'Sくらい大事で印象的な場所。なにより嘘みたいなこの巨大な岩、え?これ実在する?この冗談みたいな橋も?早速ツアーパンフに書いてある地名で検索すると…

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あった。

 私はまず「こんなのCGに決まってるだろ」と疑いもしなかった私のハリウッド脳を恥じ、そしてすぐ「中国ってなんか…すごい(もの内包してるんだ)な」とこう、ポカーンとする気持ちになった。

 そして③、映画「キングダム」のロケ地である映画村。京都の東映太秦映画村を想像してもらっていい。ちなみに象山影視城というそうだ。「影視城」には聞き覚えがあった。映画「空海」で、やはりそうした映画村で撮影したとパンフに書かれていたからだ。というわけで「軍師連盟 影視城」で検索してみたところ、すぐに「横店影視城」で撮影したことがわかった。(※WOWOWのツアー日程に入っていたはずだが何故か覚えていない)

 そんなかんじで、②と③の場所を検索し、①のバーゲンセールで行ける場所を並べてみたところ… あのクッソ広い中国大陸なのに、東京~静岡間くらいのところに②も③も空港もぜーんぶ収まっている!ウッソ!これは行くしかないんじゃない????3999円だよ????…というわけで友人を誘い、腕まくりで軍師連盟聖地巡礼セルフツアーの手配を始めた。

 

【中国旅の計画】

 まずとにかくいろんなものに英語ページがない。Booking.comとトリップアドバイザーで歯が立たない場所に旅行なんて、したことがないのだ。あきらめて中国語サイトで検索しようとするも、目的地である「縉雲県」が読めない。読めたところで変換に出てこないから打てない。盲目的に手書き入力とコピペで検索するが出ない。なぜだ。それは、中国大陸では「缙云县」だからだ。そうか、繁体字簡体字があるんだった…。こんなところからスタートの旅なんて何十年ぶりだろう。空港がある街は「寧波」というのだが、これも「宁波」。なに、その宇みたいの!もう!

 久しぶりに「地球の歩き方掲示板」に「バスの予約の仕方教えてください!」なんて書き込みをした。(⇒外国人はできません)そうやっていくうちに、Booking.comにあたるサイトは「Ctrip」という超有名サイトがあるらしいことが分かった。Uberにあたるアプリは「滴滴」というらしいとか、GoogleMapの精度が低いので「百度地図」を使うのが常識らしいとか、だんだんわかってきた頃、おおむねの手配が終わった。この文章で唯一有用なのはこの段落です。

 

【中国オタク旅の計画】

 ところでこれはオタク旅である。とくに目的地の一つである「横店影視城」は、中国でも有数の規模を誇る撮影基地であり、要はアメリカのユニバ―サルスタジオ(日本とは違い、撮影用の街並みが遊園地に併設されて制作されている)みたいなものが横店の街中に点在しているとのことである。

 ちょっと話はそれるが「映画村」について記載する。日本で有名なものは「東映太秦映画村」になると思うが、ここは実際に時代劇を撮影するためのオープンセットと、それらをモチーフにしたアトラクションやショーがある。ここはジェットコースターはないが、城や屋敷を模した巨大迷路とか、忍者ショーなんかがある。実は撮影も見学できることがあるらしいが、スケジュールは前日夜発表というから基本は運で、客に見せる気はなさそうだ。

 アメリカの「映画村」はどうか。私はロサンゼルスでユニバーサル、ワーナー、ソニーピクチャーズのスタジオを見学してみた。アメリカのユニバーサルスタジオは、NYの街並みが再現されたエリアがあり、マーベル映画などもそこで撮影されていたりする。プロップを作る工房や倉庫、巨大なスタジオ街も併設されていて、VIPチケットで申し込むとそれらを歩いて見学できる…のだが、基本は客に「この場で映画を撮影している」気分を味わってもらうような演出がしてあるアトラクション、といった感じ。もちろん日本にあるものと同様、それらをモチーフにした遊園地もくっついている。
ワーナーも同様だが、さすがに遊園地はない。(給水塔が乗っている屋根を見た時は感動した)きちんとツアーコースが決まっているようだった。ユニバと比べて作り込んだ森と湖が美しかったような印象がある。
ソニピクは少なくとも見学範囲には街並みを再現したようなセットはなく、ガイドについて建物群の中を歩いて移動する。その都度ガイドが「今入れる?」と部屋の主に聞いているところを見ると、ここはちゃんと人が作業をしている場所に感じる。スタジオ街の中にFBIを丸ごと作ってあったりした。ガイドは道中何度も「ここから突然ウィル・スミスが出てきたことがある」といったようにラッキーが突然やってくるかもしれないと演出していた。

 さて横店がどういう場所かはわからないが、少なくともユニバのウォーターワールドっぽいショーや、中華風のモンスターと兵士が出てくるスパイダーマンのライドみたいなものがあるのはHPから確認できた。

 そんなわけで情報収集のために微博(中国版Twitter)に登録してみたところ、なんと横店影視城の公式アカウントがふつうに毎週「今週はどれそれのドラマ(主演:〇〇)の撮影をやっています」と告知していた。

おうてん

驚いた。そもそも撮影中ならまだそのドラマは誰も見ていないはずではないか。そんな情報をバラしていいのか?と不思議でもあった。(しかし多い!中国は制作されるドラマの数が半端じゃない)

 これは調べてみたところ、どうやら大きな撮影の前には慣習としてスタッフや俳優がみんなで祈願の儀式?をするらしい。それがイコール「制作発表」であり、どこで撮影するかも同時にわかってしまうので、隠しても意味がないんだろう。( ↓ 画像は実際の一部。長くなるので画像を割愛。ソースはQRコードを参照のこと。しかし話はそれるが、かなりの解像度の画像や動画を、公式アプリの機能で保存させてくれるのは、心も痛まずオタクには嬉しい機能)

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ここで私は考えた。「俳優が撮影中、横店影視城にカンヅメなんだったら、ファンが押し寄せるはず…?

 私はロンドンやニューヨークで観劇やイベント参加を経て、観測範囲は狭いが「どこに行ってもアジア人は熱狂的だ」という仮説を立てていた。熱狂的というか、私も含め「いい結果を出してやろう」という執着がすごい。いい結果というのは、俳優とお話できたり、サインをもらえたりするようなことだ。公開前の映画で恐縮だが、グザヴィエ・ドラン監督の新作映画でも、アジア人の唯一の出番は、レッドカーペットで俳優に熱狂しているファン数名だった。明らかにここだけアジア人の比率が高すぎたので、私の仮説は正解だったと身につまされた。

 話を戻そう。中国のファンが横店影視城をほっとくだろうか。それとも中国のファンはドライなのか。もしくは警備やファンの自治が相当厳しいとか?そういう「雰囲気」がわからなかった。

 以前、私が羽田空港で来日するサイモン・ペグを待っていた時、黒づくめのスーツの男性が近寄ってきて「誰かを待っていますか?」と聞いてきた。なんとなく言いよどんでいると、「韓国の人じゃないですよね?」と重ねて聞かれた。違いますと答えたそのすぐ後、スラッと背の高い、黒いマスクをしたいかにもなお兄さんたちがサーーッと歩いて行ったので、「ああ、K-POPは空港の出待ちはダメなんだな」と察した。その後来たペグちゃんは、みんなに笑顔でサインをし写真を撮って去って行った。国が違えば対応が違う。果たして中国はどうか。

 そこで「横店 攻略」で検索したところ、あっさりとスターに会いたいファンのための攻略サイトが出てきた。熱量はすごいし、内容はエグいし、シークレットな情報を売ってさえいる。おそらくスターの泊まっているホテルだとかそういうことだろう。そんな感じでファンを追っていくと、ネットにスッピンの俳優の車をたくさんのファンが待ち構える動画が大量にあってびっくり!さらにそれを影視城やファンクラブの公式がRTしていてさらにびっくり!自分にはない常識だ。中国のファンの日常なのかもしれないが、今のところ、心情的にもさすがにそこまでする気にはなれない。

 そうこうしているうちに、横店影視城の中でも、①ユニバ遊園地のように一般客が楽しむエリアと、②撮影スタッフしか入れないエリアと、③人数限定で特に予約をした客のみが入れる撮影用エリアがあるということがわかった。③は公式ページからは存在をうかがい知ることはできない。地図にすら載っていない。私が攻略サイトを見て、旅行サイトの口コミを見て、人づてのいくつかの小さな情報を合わせて、最終的に③があるんだろうという結論に勝手に達したまでだ。私は何とか、③に潜り込む方法はないだろうかと探しに探した。まずは撮影現場とかって普通に見てみたいじゃないか。

 結果③にあたるエリアの予約をすることができた。正直この人生の旅行予約の中で一番手間がかかり難易度が高かった。入金してもバウチャーなどはなく、チャット(中国語オンリーだ)で聞いたら、聞いて初めて教えてくれた6桁の暗証番号を係の者に言えとだけ言われた。雑だ。

 

【行ってきた】

 どんな旅だったかはいつか旅レポを書くとして、結論としては素晴らしい旅だった。

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 軍師連盟のバディである司馬懿曹丕がよくデート(意訳)していた岩も橋もあった。(なお間近で見てもCGのようだった)

 横店では軍師連盟に出てきたアレやそれがてんこ盛りで、大変感動したし、4Dライド「龍帝驚臨」はユニバのスパイダーマンと同じくらい面白かった。(動きや映像といったソフト面は少々雑でマーベルにはかなわないが、ハードの設計のダイナミックさはこちらに軍配が上がった)

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 また、実際のドラマの撮影をすぐ横で見物することができた。これは予約した③のエリアで見たのだが、なんというか自由で、たとえば我々に入館パスがあるわけでも、巡回ルートがあるわけでもなく、ただ野に放たれた。セキュリティとは?我々は勝手に広大な撮影セットに入ってうろうろした。「撮影中」のテープがある所までは歩いて行けて、トラックが来たら勝手によける。ドラマの撮影中にスマホを出しても誰も見ていない。スタッフがセットを組み立てている横を通り抜けて次の場所に行く。なんなら撮影スタッフに「仕事?旅行者か?日本人?友達になろう!」とか言われるレベルで放置だった。

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 残念ながら見学できたのは軍師連盟に出演していた俳優さんのドラマではなかったが、バズーカみたいなカメラを持った少年が推しの女優さんの待機するトレーラーの横でそわそわしているのを見るのもほほえましかった。台湾から来たカップルがセットの屋台で食事ごっこをしていたので、我々も共に候吉※ごっこ(※軍師連盟に登場する主人公の家のスーパー使用人。料理が得意)をして遊んだ。

 中国は見るものすべて素晴らしく、新しく機能的で、でも雑なところの雑さ加減はハンパじゃなかった。ごはんはどれもおいしかったが、予想に反して油分と塩分は控えめのやさしい味だった。人はみなスマホを使い慣れていて、言葉の通じない日本人にも大変親切だった。

 

【帰ってきた、その後】

 帰ってきたあと、微博で俳優さんのアカウントをフォローしてながめたりしている。中国版YouTubeニコニコ動画であるところの、优酷やビリビリ動画を見たりしている。そうしていると、やっぱりちょっと洋画沼にいるようにはいかないなと思うところも出てきた。

 それは単純に、電子書籍を買おうとしてもクレジットカードでは買えなかったり、事実上外国人には売ってもらえないといったレベルのことから、もう少し気まずい話題まで多岐にわたる。単純に私が無知なのだがこれは獲得していく過程なのだと思ってあまり怒らないでほしい。

 例えば直近では12月13日。この日はいわゆる「南京事件」で特に南京城が陥落した日とされる。いわゆる「南京大虐殺」だ。(日本語wikipedia)この日はフォローしている俳優さんがほぼ全員「日本の侵略者に30万人虐殺された南京を忘れない」という内容の記事を微博でRTしたのだった。まずその横並び一線の行動に私は驚く。誰かの指示なんだろうか。社会の圧なんだろうか。
 そしてさらに驚くのは、そうした日なのにほぼヘイトが見当たらないことだ。少なくとも俳優たちの書き込みはせいぜい「歴史を忘れない。平和を望む」くらいで、それにぶら下がるファンのコメントも同様。それにも驚く。私の知っている世界中のSNSでは、どこでもたいてい頭のおかしいやつが出てきて、特定の国や民族や宗教に対して許されないことをつぶやくはずだが、ここには不自然なくらいそれがない。中国の人が特別に意識が高いんじゃないなら、これはきっと何かの力が…働いているんじゃないかと想像してしまうくらいだ。明るく正しい場なのに、背景に不自由を感じてしまう自分もいる。

 そしてやっぱり、推しの俳優さんが抗日(反日)ドラマに出るのを目の当たりにするのも複雑だ。正直ナチスやロシアを悪役にするハリウッド映画は今でもたくさん作られ続けているが、抗日ドラマの作られる数や頻度といったらハンパじゃない。気が付けば知っている俳優さんが出ている。そんな感じだ。
 軍師連盟に出演した俳優さんの最新抗日映画が東京でも上映されると聞き、調べたところなんと日本語字幕なし。これは複雑だ。
 ただし東京での上映を告げる微博の記事にはずらりと「なんで日本でやるんだ…」「中国人向けでしょこれは…」と疑問を呈するコメントが並んでいた。ここでもやはりヘイトはなかったどころか、心配する声ばかりが並んでいたのが印象的だった。
 同様に、東京上映をTwitterで調べると、中国俳優ファンの日本人が「見てきました!〇〇超かっこよかった~っ!例の曲は後半でかかりました!」と明るくツイートしていたりする。例の曲というのは、よくわからないので想像の域を出ないが、前後の文脈からすると抗日ドラマではよく流れる、あまり日本人には嬉しくない曲の事と思われた。どの態度も、それでOKなのかよくわからない。なんとなく、居心地がよくない。

 洋画沼で見るものは、意識してひきよせることはできてもつまりは他人事なんだなと感じる時はある。リンカーンの話をアメリカの人のようにはなかなか感じ入れないし、ヒッピー文化はいつまでもよくわからない。
 でも中国沼では、逆に、勝手に忍び寄ってくる過去の歴史や政治について、いえいえこれはそっと目を伏せておきましょう、という無視の意識を持つことになる機会がある。これは韓国の沼にもきっとあるのではないだろうか。推しが出演している作品を全力で推せないのは、なんだかもどかしい。コリン・ファースの「高慢と偏見」はいつも見かけるのに、「レイルウェイ」についてはTLで全然見ないな、とふと思う時の気持ちに近い。私が日本人であることをいちいち意識することは日常ないし、私は戦争や侵略をしたことはないのだが、意識の外に置くのも違う気がする。

 私の場合、生まれ育ちは北海道。車で隣の県に移動することすらできない土地で、地名はほとんどアイヌ語だ。少なくとも私の周りでは「隣国」はロシアの事だった。ロシアから、大けがを負ったこどもが運ばれてきたり、小学生が毎年交換留学していたり、北方領土についてのデモや遺骨を捜索しに行く人のニュースも何度も見た。シベリアやツンドラというような北国な言葉にも親近感を持っていた。
 そんな土地でもあったので、そもそも在日の人を見たことがなく、大人になって東京に来るまで、遠い中国や韓国のことはほとんど考えたことがなかった。なので普通に生まれた時から内地(※北海道方言。多くの場合、本州と四国と九州をまとめてさす時に使う)で暮らしている人より意識が低くて、概念として持っていないことも多いと思う。

 そんな気持ちが交錯して、果たして私はこのまま中国ドラマを好きになっていいのか?と迷ったり躊躇してみたりする。そして同じことを、普段あまり考えないようにしている、英国や米国にだって範囲を広げて思っちゃったりする。
 いやいや日本って国に一番いい加減にしろよって思ってもいるけれど、税金納めて幾星霜、私も結局日本の構成要素として片棒を担いでいるわけで、一介の大人としてそれにも落ち込む。日本の経済をぶち上げて政府なんてどうでもいいぜってなるようなヒット商品とか作れたらよかったんだけど。
 そして最終的にすぐ「それとこれとは別!」となったりもする。アメリカが中東に爆弾を落としていた時、世界の誰がハリウッドをボイコットした?いやいやハリウッドにはアメリカを批判する態度を期待したんだよって?などと、私などが考えてもしようがないことをぐるぐるしてしまう…。

 

【さいごに】

 結論はでていない。10000字も書いて何言ってんだって話なんですが。出ていないんだけど、無知よりはたくさん知っていた方がいろんな判断ができると思う。思うので、せめて映画やドラマを通してだけでも外国や隣国に関心を持って、あれこれ見てみたいという元々持っていた欲望が、中国ドラマのおかげでより一層強くなった。

 洋画沼で常日頃感じていた、西洋の正義の圧力をしんどく感じていた瞬間と、そう思う自分への罪悪感。でも異なる正しさだって世界には確かに存在している。どちらも正しいという世界になればいいけど、今は傾斜があるように感じているし、それを不服に思う気持ちもそのままにしておこうと思う。(なお私はクレイジーリッチ!もブラックパンサーも「ふ~ん、欧米人が喜びそうな映画だね」と感じたタイプである)

 もともとお箸の国の人たちに対して持っていた親近感を育てていこうと思っている。訪れるために色々調べたことで、「親戚なんだな」と思うことが多くなった。(欧州の人たちはこういう感覚がきっと私より強いんだろうな)
 またすぐ中国を訪れたいと思う。てかもうチケットとった。イエイ。韓国も15時間くらいしか滞在したことがないから行きたい。日本ももっといろいろ行ってみたい。

 洋画沼でチャプチャプしている自分がその価値観に触れてから、何十年目かに足元を見てみるようにしたその変化、これが、2019年の私の「動かされたもの」です。みなさま、ハッピーホリデー!よいお年を。

 

 

【おまけ】
 はとさんに「本の宣伝をしなさい」と仰せつかったので載せます!
サンディエゴ・コミコンに行ったり、ハリウッドに行ったり、テレビ番組「CONAN」を観覧に行ったり、スペインのゲーム・オブ・スローンズのロケ地に行ったりした時の、旅行本を書いています。がんばって書きました。

限界漂流 - BOOTH映画好きが、主に旅の本を書いています。上の写真をブラジルから中国にかえてみました。縉雲県、仙都風景区の鼎湖峰です。  

ぜんぶまとめて

 普段は140字の世界に生きているので、こうしたぼやぼやした話はたまに友人にDMでするくらいでして。今回一気に書いたので、ちょっと息切れしています。長文を最後まで読んでいただきましてありがとうございました。機会をくれたはとさんありがとう。

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